お子さんに英語を早く習わせたほうがいいのかと迷ったことはありませんか?
大切なのは「正しい英語」ではなく「コミュニケーション力」をつけること。まずは母語の日本語力を豊かにして、思考力や創造力を育てることが大切と話す峯村敏弘園長先生(シンガポールのイーズ・インターナショナル・プリスクールの創設者で園長)。
「楽しみながら英語を使う」とはどんなことなのか、一緒に学んでいきましょう。

公開日 2025.06.30
番外編

英語を習うなら正しくより楽しく!

“正しい英語”は国によって違う

峯村先生
よくうちの園(シンガポール イーズ・インターナショナル・プリスクール)で、保護者の方に「正しい英語を教えていますか?」と聞かれることがあります。大体そういう時は、保護者の方に「正しい英語って何ですか?」って逆に問いかけます。

うちの園には以前イギリス人の先生とアメリカ人の先生がいました。アメリカ人の先生に自分は消しゴムのことを“eraser ” (イレーサー) と言っていました。(そう、習いましたよね?) でもイギリス人の先生にそれを言うと「何を言ってんの?」 って言われるんですよ。

「消しゴムは “rubber” ( ラバー) だよ」

日本の中学校では“rubber” なんて書いたら×にされます。「rubberは“ゴム”でしょ?」という感じだったのですが、先生たちと一緒に話をしていると、ブリティッシュイングリッシュとアメリカンイングリッシュは違うし、別の国の英語はまた違います。シンガポールはシングリッシュという“正しい英語”がありますし、国によって、それぞれの英語があります。英語は「しゃべること」が目的ではなくて、大切なのは「コミュニケーション力をつけること」です。

シンガポールでは「can」で会話が成り立つ?

峯村先生
これは笑い話なんですが、シンガポールのおばさんは大体 「OK lah」 「can」 で会話をするんです。

ペンを持ってクエスチョンぽく 「can?」 と言うと 「これ使っていい?」 に聞こえますよね。
それに対して 「can」 「can can」 と答えたら 「どうぞ お使いください」 みたいに聞こえるじゃないですか。
そうするともう 「can」 だけで色んなものが会話ができちゃうんですね(笑)。シンガポールのおばさんはそういう単語だけの英語で、アメリカ人にもイギリス人にも商売をしています。

日本人はどうかというと 「I can’t speak English」 (私は英語を話せません)ときれいな英語で言って、騙されて帰ってくるというのが、大体日本人とシンガポールのおばさんとの違いかなと思いますね。
子育て座談会をしている峯村先生とこそだてDAYS編集部

英語力の前に “母語” を豊かにしよう

峯村先生
これからの世の中というのは、英語で大切なのは「コミュニケーション力」です。 “正しい英語” は地域によって違いますから。
親御さんとしては、お子さんの英語力を高めて、通訳者にしたいわけではないですよね。英語を使って世界に羽ばたけるグローバルな人材になっていくということがすごく大切です。ではグローバルになるための英語力って何か。それは、英語力の前に思考力、考える力です。

仕事ができる人は、英語がわからなくても世界中どこでも通用しますよね。でも、仕事ができない人がいくら英語ができても、世界では通用しません。ということは、まず思考力・ 想像力・論理性とかそういうものがしっかりできていないと意味がないということです。そのためにもやはり母語が大切です。

母語(ぼご)とは… 人が生まれてから育つ過程で自然と身に着いた言語。第一言語ともいわれる。

峯村先生
母語が豊かになって、その上で英語がしゃべれるようになることが、実は英語力で一番大切なことです。特に今どんどんコンピューターが進んで、きっと道具としての英語の部分はもうあって、たぶん何かを口元につけたら、日本語でしゃべったものがそのまま英語になって伝わる。それが今度相手の言葉も日本語になって聞こえてくる。それが中国語であろうが スペイン語であろうが、そういう時代になったとき、どういう英語力が必要かというと、“心”とか“文学的なもの”など、イメージ的なものを伝えたいときのための、真の英語力の部分。思考力、創造力にのっとった英語力をつくっていかないと意味がないんです。

私がシンガポールに行ってびっくりしたのは、いかに自分が日本のことを知らないか。
どんどん質問されても、日本のことについて知っていることが少なかったり、海外の方たちの方が知っていたりすることがあります。ちゃんとコミュニケーションをとるためには、自分のことも話せなきゃならないです。自分のことを話せると相手の国のことも聞くことができて、そこで信頼感とかコミュニケーションがビジネスにつながったりということになっていきます。グローバル教育で大切なのは、ちゃんと日本人になることです。日本人のアイデンティティとか日本人としての感覚を養っていくために、日本語が豊かでないと豊かな英語の部分がなかなか入ってこないのかな、と思いますね。

好きなアニメの話をきっかけに英語力が伸びた!

T.Nさん(7歳児と2歳児のママ)
私は親の転勤で、小学校6年生からアメリカに6年くらい住んでいました。アメリカに行く前に、家庭教師をつけて日本で英語の勉強をしていたんです。基本的な “May I go to the restroom?” (トイレに行ってもいいですか?)など、学校で使う必要な英語を叩き込んで行きました。

いざ行ってみると、学校でできた言葉の通じないお友達と、ポケモンのキャラクターという共通の好きなことで、何となく会話が通じたんです。先生と1対1で学ぶよりも、そこからどんどん上手になっていきました。自分の好きなこととか、お友達との交流を通してはじめて 自分で「伝えたい」「相手のことを知りたい」 っていう思いがあって、そこからぐっと英語力が伸びて、覚えていきました。そういう体験は日本にいるだけだとなかなかないとは思うんですけれど…。
子育て座談会をしている峯村先生と子育て中のママ
峯村先生
よく自分が言っているのは、主語 ・述語・ 修飾語ぐらいまで、ちゃんと文法的な分け方ができるようになるまでは日本語優先ということ。その期間が長ければ長いほどいいのですけれど、最低でもそこまではちゃんと日本語を豊かにしていって、そこから英語を習い始めると、母語が消えることはないらしいですね。もちろん英語も日本語に対しても勉強した語学が伸びていくだけ。勉強しなければ落ちていきますが、ただ一瞬にして消えちゃうということはないです。日本人だったら日本語を優先させて、そのあと英語を入れていくということが大切だと思いますね。そして、世界中の人とコミュニケーションをとって、「大好きだよ」というのを本当の意味で伝えられる力を持つ。コンピューターには負けない英語力というのがついてくるんじゃないかなと思います。コンピューターで済むようなものはコンピューターに任せてもいいんじゃないかな。

日本で英語を習わせるなら “楽しく、たくさん英語を使う” ところを選ぼう

こそだてDAYS
日本で子どもさんが生まれて、日本で育てようと思ったときに、グローバルに育てるってすごく難しいかと思います。環境を変化させることができない(先生のシンガポールの幼稚園などにいけない)お母さま、お父さま達は、まず何をすればいいですか?
峯村先生
うちは英語に関してはPhonics(フォニックス)を推奨しています。
なぜかというと、ほかにも色んな方法があると思うんですが、Phonicsをやると単語が読めるようになるんですね。単語が読めるようになると単語が発音できるようになって、比較的いい発音でしゃべれるようになります。そうすると興味が湧いてきます。

日本にいると、外国の方としゃべるチャンスは少なくても英単語はいっぱいあふれています。英単語があったときに、“fruit”を「フルーツ」と読めるようになった。それが“果物”なんだということがわかるようになって、発音が良くなると英単語が耳で聞こえるようになってきます。そうすると、今YouTubeとかがあるので、単語をいっぱいしゃべれるようになったらYouTubeを聴いて、そこから世界にどんどん出ていくというのが、一番グローバルになっていく近道なんじゃないのかな。

うちの園だったら色んな人種の先生がいますから、「イギリスは〇〇先生の国」という感じで、世界中とつながっているんです。自分が世界中とつながっているということを、地球の中の一人だっていうことを考えていたら、世界の遠い国で知らない話や不幸があっても「大変だ」と思い、「○○ちゃん家のことかもしれない」と感じる。そうつながっていけることがグローバルに向けて一番大切かな。
phonicsの英語教育について子育て座談会をしている峯村先生とこそだてDAYS編集部
こそだてDAYS
先生最初におっしゃってくださったPhonicsは、非常に言葉を大事にする勉強だと思うんですけど、耳で聞いてというのが大事なんですね。
峯村先生
うちの園児を見ていると、(英語力はそれぞれですが)英語をしゃべれる人に対して「自分の言うことはちゃんと通じる」と思ってぶつかっていける。あの根性を多分、多くの日本人は持っていないのかなと思います。通じないと思って最初から行くのか、絶対で通じると思って話しかけに行くのかで、全然違いますから。
こそだてDAYS
(私たち日本人は)英語が出来ていないと思っているので、話すのに躊躇してしまって一歩が踏み出せないんですよね。
峯村先生
でも実は、シンガポーリアンも(僕はアメリカもそうだと思うんですが)、よく聞いてみると大した英語はしゃべっていないんですよね(笑)。ただ、その大したことないことでも日本人はしゃべらないから、なかなかコミュニケーションができないのです。
こそだてDAYS
先生のおっしゃるように、子どもたちが小さいときから、ちょっとでも耳で聞き慣れていると、言葉に出すことに自信が持てるということなんでしょうか。
峯村先生
英語の習い事やスクールに通うコツは、とにかく楽しいところ。正しいことを教えるところじゃなくて、楽しく教えてくれる場所で、英語をいっぱい使うことが大切です。

先生はどこの国の人でも関係ないと思います。日本人だって素晴らしい英語の先生はたくさんいますし、金髪でいかにもアメリカ人っぽい先生でも、子ども嫌いの先生だと英語も嫌いにしちゃいますから。それよりも楽しく英語を使っていくようなところに行って、英語を習うというよりも英語を使う、使いながらコミュニケーションをとる学校を選ばれた方がいいんじゃないかなと思います。

まとめ

  • 英語をしゃべるのが目的ではなくコミュニケーション力をつけることが大切
  • まずは母語を育てて思考力・想像力・論理性などの考える力をつけよう
  • 英語を習うならとにかく楽しいところ楽しくたくさん英語を使えるところがおすすめ
峯村敏弘
シンガポールのイーズ・インターナショナル・プリスクール創設者
東進スクール、日能研を経て1998年よりシンガポールに住む。 「子どもたちの今と未来を幸せにする。」を模索した結果、当地にEis International Pre-School及びキッズルー&ママルーや学習塾KOMABAを創設。 当地以外にもインドネシア(ジャカルタ)、フィリピン、日本において教育事業を展開。さらに特別支援教育を始め、広く日本人子女のための教育活動を行なっている。

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